財務諸表の情報の質的特性(IFRS-SME 2.4-2.14)

10.28

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IFRS-SMEにおける”質的特性”の内容は、2010年に発行された、完全版IFRSの”概念フレームワーク”と基本的に同じとの事ですが、IFRS-SMEにおいては、ユーザーの性質、数、ニーズに応じて、当該基準を採用する事による便益も様々であるため、費用対効果への配慮が導入された様です。 最も重きが置かれる特性は、目的適合性(Relevance)と信頼性(Reliability)であります。

理解可能性(Understandability)
2.4 財務諸表が提供する情報は、事業・経済活動及び会計に関して合理的な知識を有し、また合理的に勤勉な態度をもって情報を研究する意志を有する利用者が理解できるような方法で表示しなければならない。しかし、理解可能性の要求は、ある利用者にとって難解すぎるかもしれないという理由で関連する情報の省略を認めるものではない。

財務諸表の提供者側にもユーザー側にも、財務諸表の理解可能性を深めるための、一定の努力義務を課しています。すなわち、提供者は、情報を簡潔明瞭に、区分し、特徴づけし、表示するとともに、理解が困難と思われる情報については、できるだけ簡潔に表示し、説明しなければなりません。他方、ユーザー側も、合理的な知識を有していることを前提としており、気持ちだけでなく、実際に、報告された財務情報を研究する責任があります。

具体的には、例えば、税効果会計や確定拠出年金の会計について、ユーザーが理解し得ないという理由で、税効果会計や年金会計の適用を見送ってはいけないとい事です。きちんと難解な基準も適用し、そのうえで、ユーザーに簡潔明瞭な説明をしなければならないという事です。

目的適合性(Relevance)
2.5 財務諸表で提供される情報は、利用者の意思決定のためのニーズへの目的適合性がなければならない。情報は、過去、現在若しくは将来の事象を利用者が評価し、また利用者の過去の評価を確認し訂正するのに役立つことによって、利用者の経済的意思決定に影響を与えることができる場合に、目的適合性の特性を有する。

投資家、ローン提供者、その他の債権者による様々な意思決定は、その株式、ローン、その他の債権に対するリターンの金額やタイミングについての暗示的ないし明示的な予測に基づいています。そのため、情報は、ユーザーが新しい予測をしたり、過去の予測の確認や訂正をする助けになる場合、あるいは、両者の場合において、夫々の意思決定に違いをもたらすことが可能となり、目的適合性があると言えます。 逆に言うと、意思決定に何の影響も出ないような情報は、目的適合性がないといえます。

例えば、すべての面において類似している2つの会社(企業Aと企業B)があって、それぞれの会社の前期と当期の当期純利益が次のような場合があったとします。

  • A社: 前期50、当期50
  • B社: 前期40、当期60

このケースにおいては、A社の方が安定的な成績をあげているという実態を評価するユーザーもいれば、B社の方が、対前年比で150%の成長を遂げているので将来性が高いことを評価するユーザーもいることでしょう。上記の数字が正しい限り、各ユーザーによって、それぞれの意思決定を可能にしているという点で、目的適合性のある情報であると言えます。

ところが、もしB社の前期の数字に間違いがあり、実は、B社の実績は、前期50、当期50で、A社と同じだったとします。この場合、目的適合性の観点からは、この間違いについて、どの様な会計処理をすべきでしょうか? 勿論、過年度修正ですよね(IFRS-SME 10章で触れられています)。

過年度修正をすることにより、エラーのない財務諸表の開示が可能になります。また、A社との本当の意味での比較が可能になると同時に、B社内における経営成績の適切な期間比較分析が可能になります。 これにより、恐らくは、当初は「対前年比で150%の成長を遂げているので将来性が高い」と評価していたユーザーも、考え(予測)を見直す機会になるかもしれません。

重要性(Materiality)
2.6 情報は、その脱漏又は誤表示が、財務諸表を基礎として行う利用者の経済的意思決定に影響を及ぼす場合に重要性がある。また、その結果として目的適合性も有する。重要性は、脱漏又は虚偽表示があった特定の状況下で判断される当該項目又は誤謬の大きさに依存する。しかし、企業の財政状態、財務業績又はキャッシュ・フローの特定の表示を達成するために、「SME 基準」からの重要性がない乖離を生じさせたり、未修正のまま放置したりすることは適切でない。

重要性は、上記の「目的適合性」の一面を表すものと言えます。重要性のない情報は、ユーザーの意思決定に影響を及ぼさないからです。

重要性があるかないかは、それを取り巻く個々の状況において判断されますが、とりわけ、ユーザーの経済的意思決定に、個別に又は総体として影響を及ぼす場合には、重要性があるとされます。そして、当該項目の 大きさや性質、又はその両方が重要性を判断する要因となり得ます。従って、重要性については、定量的な数値で示せるものではありません。

例えば、当期の財務諸表の公表前に、減価償却費の計算に誤りがあることが発覚したとします。間違えの金額と内容は、2百万円の過少計上、これを加味する前の税前利益は、100百万円だったとします。 他に何もなければ、金額的な重要度も、2%の影響なので、重要性はなしと判断可能かもしれません。しかしながら、もし当該過少計上の費用を認識すると、税前利益は98百万円になり、これが借入契約上の制限条項(例えば、税前利益が100万円未満の場合には利率がアップしたり、繰上弁済が必要だったりする場合)に触れることになるとしたら、重要性はないと判断できるでしょうか。

PwCの指針によると、以下のような項目は、個々の金額に関わらず、重要な項目と位置付けているようです。

  • 関連当事者取引
  • 利益から損失に逆転させるような取引(又はその逆)
  • 純資産ポジションから債務超過に逆転させるような取引(又はその逆)
  • アナリストの期待を満たす企業能力があるかどうかの判断に影響を及ぼすような取引
  • 収益その他財務数値の趨勢に変化を及ぼすような取引
  • 会社の業績や収益性に対して中心的な役割を果たしている事業セグメントや部門に懸念を抱かせるような取引
  • 借入条項や他の契約上の条件に影響を及ぼすような取引
  • 役員報酬を増加に影響を及ぼすような取引
  • 法や規制の変化
  • 法や規制への非準拠
  • 罰金
  • 訴訟事項
  • キーとなる供給業者、顧客、ないし、従業員との関係の悪化
  • 特定の供給業者、顧客、ないし、従業員への依拠

信頼性(Reliability)
2.7 財務諸表により提供される情報は、信頼性を有するものでなければならない。情報は、重要な誤謬や偏りがなく、またそれが表示しようとするか、あるいは表示されることが合理的に期待される事実を忠実に表現する場合に、信頼性を有する。 財務諸表は、予め決められた結果又は成果を達成するために、意思決定又は判断の行使に影響を及ぼすことを意図して情報を選択し又は表示する場合は、偏りがないとはいえない(すなわち中立ではない)。

完璧に忠実なる表現であるための、3つの特徴は、「完全である事」「中立である事」そして「誤謬がない事」であります。実際に完璧であることは稀であるが、可能な限り、これらの3条件を満たすようにすることが大事との事です。忠実なる表現は、必ずしも、すべての面で正確である事を意味するものではありません。

同様に、「誤謬がない事」も、すべての面で完全に正確である事を意味するものではありません。たとえば、直接目に見えないものの価格や価値の推測は、正確にも不正確にもなし得ません。しかしながら、もし表現された金額について、推測値であることが正確に明示され、推測プロセスの性質や限界が説明され、かつ、その推測を実施するにあたってのプロセスが、間違いなく選択され適用されているのであれば、その推測についての表現は忠実であると言えます。換言すれば、信頼性は、精密さを意味するものではありません。

また、「中立である事」は、偏りがないことですが、歪んでいない事、何かに重点が置かれていたり、強弱がつけられていない事、ユーザーによって好意的に取られたり、逆に取られたりするように操作しているものではない事である。中立な情報は、目的のない情報であるとか、行動にたいして影響しないということではありません。目的適合性のある財務情報は、ユーザーの意思決定に影響を与えます(違いをもたらします)。

実質優先(Substance over Form)
2.8 取引及びその他の事象や状況は、単に法的形式に従うのではなく、その実質に即して会計処理し、表示しなければならない。これにより財務諸表の信頼性が強化される。

法的形式よりも、経済実態を優先するという原則です。例を挙げると以下の様になります。

高級ヨットを製造する会社が、時価2,00,000円のヨットを、ある銀行に1,000,000円で売却し、一年後に、1,080,000円で買い戻す契約を結んでいる。当該ヨット製造会社の、追加借入金利は、年利8%とします。 この場合、当該ヨット製造会社は、どういう経理処理を取るべきでしょうか?

また、事実は上記と同じではあるものの、一年後の買い戻しは義務ではなく、一年後に、1,080,000円で買い戻すオプション契約を結んでいた場合には、どういう経理処理が妥当でしょうか?

どちらのケースにおいても、ヨット製造会社においては、収益の認識は禁止され、金融取引としての認識が必要となります。すなわち、当初の売却代金1,000,000円は夫妻として認識し、当該ヨットは、資産のまま残ることになります。そして差額の80,000円は、実態が金利であり、買戻しまでの一年間にわたり、利息法によって金利として認識されることになります。また、後者の例においては、時価が2,000,000円ですので、買い戻すオプションが行使されないのは、経済的にあり得ないだろうという事判断になります。

慎重性(Prudence)
2.9 多くの事象と状況を不可避的にとりまく不確実性は、その性質及び程度を開示することにより、また財務諸表の作成に際して慎重性を行使することにより認識される。慎重性は、不確実性の状況下で要求される見積りにあたって必要とされる判断の行使に際して、資産又は収益の過大表示及び負債又は費用の過小表示とならないように、ある程度の用心深さを要求するものである。しかし、慎重性の行使によって、資産若しくは収益の故意の過小表示又は負債若しくは費用の故意の過大表示となることは容認されるものではない。端的にいえば、慎重性は偏りを認めない。

「信頼性」をサポートする築盛であり、特に、偏りを認めない点を強調しています。判断の行使に際しては、一定レベルの用心深さを要求し、過度に保守的になる事にも釘を刺しています。

完全性(Completeness)
2.10 財務諸表における情報は、それが信頼性を有するためには、重要性とコストの制約範囲内において、完全なものでなければならない。脱漏があると、情報は虚偽又は判断を誤らせるものとなり、したがって、信頼性を有さず、かつ目的適合性に関して不完全なものとなる可能性がある

 

比較可能性(Comparability)
2.11 利用者は、企業の財政状態及び業績の趨勢を明らかにするために、各期を通じて企業の財務諸表を比較できなければならない。また、利用者は異なる企業の財政 状態、業績及びキャッシュ・フローを評価するために、これらの財務諸表を比較できなければならない。したがって、類似する取引及びその他の事象や状況についての財務的影響の測定と表示は、同一企業内において、また企業の各期を通じて一貫した方法で行われ、さらに企業間においても一貫した方法で行われなければならない。これに加え、財務諸表の作成にあたって採用した会計方針並びにその変更及び変更の影響は利用者に対して情報提供されなければならない。

目的適合性があり忠実に表現された情報は、それが他社や自社の他の期間の情報と容易に比較可能であれば、最も有用な情報と言えます。ただし、比較可能でなかったとしても、目的適合性があり忠実に表現された情報は、依然、有用なものです。しかしながら、情報に目的適合性があり忠実に表現されたものでなければ、比較可能なだけでは有用でとは言えません。従って、「比較可能性」は、根本的な質的特性というよりは、他を補強するような特質をもっています。

比較可能性は、ある特定の取引であれば、どの会計期間においても同じ処理がなされ、あるいは、他の企業においても同じ処理がなされることが期待されていますが、他方では、比較可能性は、単なる画一性とは区分されなければなりません。ある取引や自称について、ずっと同じ処理を続けることが適切でない事もあり得ます。目的適合性と信頼性の観点から、変更しなければならないケースがあることも認識しておく必要があります。

情報が比較可能であるためには、似たものは似たように見え、異なるものは異なる様に見えるはずです。財務情報の比較可能性は、似たものを異なる様に見せても促進されないように、異なるものを似たように見せても促進されません。

適時性(Timeliness)
2.12 目的適合性を有するためには、財務情報は利用者の経済的意思決定に影響し得るものでなければならない。適時性は、情報を意思決定までの期間内に提供することに関係する。情報の報告に過度の遅延がある場合には、情報はその目的適合性を失う可能性がある。経営者は、適時な報告と信頼性を有する情報の提供のそれぞれの相対的利点の間の均衡を図る必要があろう。目的適合性と信頼性との均衡を図るにあたって最優先に考慮すべきことは、経済的意思決定を行う上での利用者のニーズをいかに最もよく満足させるかである。

一般的に、情報は古いほど、有用ではなくなります。かといって、適時性が、目的適合性や忠実な表現(完全、中立、無誤謬)ほど重要と言う訳ではありません。タイムリーな情報は、その情報が、目的適合性を満たし忠実に表現されている場合に限り有用だからです。目的適合性を満たし忠実に表現されている情報は、多少タイムリーさに欠けても、依然、有用であります。

便益とコストとの均衡(Balance between Benefit and Cost)
2.13 情報によってもたらされる便益は、当該情報を提供するためのコストを上回るものでなければならない。便益とコストの評価は、本質的には判断のプロセスである。さらに、コストは、必ずしも便益を享受する利用者のみが負担するものではなく、また情報の便益はしばしば広範な外部利用者によって享受される。

2.14 財務報告の情報により、資本の提供者はより良い判断を行うことができ、その結果として資本市場がより効率的に機能し、経済全体としても資本コストが低減される。個々の企業も、資本市場へのアクセスの改善、広報活動への好ましい影響、及び場合によっては資本コストの低減といった便益を享受する。便益には、より良い経営上の判断も含まれ得る。これは多くの場合において、内部で使用される財務情報の、少なくともその一部は一般目的の財務報告のための情報に基づくためである。

ユーザーが負担するコストには、様々なものがあることを認識しておく必あります。

  • 財務諸表の作成コスト(このコストは、最終的には、ユーザーへの還元利益の減少という形で、ユーザーが負担する事になります)
  • 提供された財務情報を使って、分析・処理するコスト
  • 提供されなかった財務情報を入手するコスト
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